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岡山地方裁判所 平成4年(ワ)690号 判決 1992年11月26日

甲事件原告

日動火災海上保険株式会社

甲事件被告(乙事件原告)

綾部智子

乙事件被告

難波浩治

主文

一  甲事件被告は、甲事件原告に対し、金七五万一五三〇円及びこれに対する平成三年四月二四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  乙事件被告は、乙事件原告に対し、金三二万四八六七円及びこれに対する平成二年七月一五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  甲事件原告及び乙事件原告のその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、甲事件についてはこれを一〇分し、その七を甲事件原告の負担とし、その三を甲事件被告の負担とし、乙事件についてはこれを一〇分し、その三を乙事件原告の負担とし、その七を乙事件被告の負担とする。

五  この判決は、一項及び二項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨(甲事件)

1  甲事件被告は、甲事件原告に対し、金一七五万三五七二円及びこれに対する平成三年四月二四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は甲事件被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨(甲事件)に対する答弁

1  甲事件原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は甲事件原告の負担とする。

三  請求の趣旨(乙事件)

1  乙事件被告は、乙事件原告に対し、金四六万四〇九七円及びこれに対する平成二年七月一五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は、乙事件被告の負担とする。

3  仮執行宣言

四  請求の趣旨(乙事件)に対する答弁

1  乙事件原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は乙事件原告の負担とする。

3  仮執行免脱宣言

第二当事者の主張

一  請求原因(甲事件)

1  交通事故の発生

(一) 日時 平成二年七月一四日午後一一時五分ころ

(二) 場所 岡山市奥田二丁目三番九号先市道

(三) 加害車両 普通乗用車(岡五八み八〇九三)

(四) 右運転者 被告(以下、「綾部」という。)

(五) 被害車両 普通乗用車(岡五八ま八一九三)

(六) 右運転者 訴外難波浩治(以下、「浩治」という。)なお浩治は本件事故当時、訴外難波靖男(以下、「靖男」という。)の承諾を得て被害車両を運転していた。

(七) 右所有者 靖男

(八) 態様 出会い頭衝突

2  責任原因

(一) 共同不法行為(民法七〇九条、七一九条)

綾部は、本件事故現場交差点に進入する際、対面する信号が赤色点滅であつたのであるから、一時停止して左右の安全を確認して進行し、左右に進行中の車両があるときまたはその有無が確認できないときは進行すべきでない注意義務があるのにこれを怠り、漫然進行した過失により、加害車両の右方向から徐行を怠つて直進してきた被害車両に、加害車両を衝突させて、被害車両を破損し、さらにバランスを崩した被害車両を訴外高田工業株式会社(以下、「訴外会社」という。)所有の建物、什器及びスチール製門扉に衝突させてこれらを破損した。

(二) 過失割合

綾部と浩治の本件事故における過失割合は、綾部が七割、浩治が三割である。

3  靖男の損害

本件事故による被害車両の修理費用は金八一万九三七〇円と見積もられたところ、被害車両の時価は金六二万円であつたので、靖男の損害額は金六二万円である。

4  訴外会社の損害 合計金一八八万五一〇三円

その内訳は、以下のとおりである。

(一) 応急修理費 金一八万円

(二) 建物什器修理費 金一〇二万八三九三円

(三) スチール門扉修理費 金六七万六七一〇円

5  保険契約

(一) 靖男は、平成元年九月三〇日、甲事件原告との間で左記の内容の自家用自動車総合保険(以下、「本件保険契約」という。)を締結した。

(1) 保険期間 平成元年九月三〇日午前四時から平成二年九月三〇日まで

(2) 被保険自動車 前記被害車両

(3) 被保険者 靖男及びその承諾を得て被保険自動車を使用していた者ほか

(4) 対物保険金額 金二〇〇万円

(5) 車両保険金額 金一一五万円

(二) 本件保険契約約款第一章(賠償責任条項)第二条には、甲事件原告は、被保険自動車の使用または管理に起因して他人の財物を滅失、破損、または汚損することにより、被保険者が法律上の損害賠償責任を負担することによつて被る損害を填補する旨の規定がある。

(三) 同約款第五章(車両条項)第一条<1>項には、甲事件原告は、衝突その他偶然の事故によつて被保険自動車に生じた損害を被保険自動車の所有者に対し填補する旨の規定がある。

6  保険代位

(一) 甲事件原告は右約款に基づき、浩治に代わつて、訴外会社に対し、平成二年一〇月一七日に金一八万円、同月二六日に金一七〇万五一〇三円の合計金一八八万五一〇三円を前記損害賠償として支払つた。

(二) 甲事件原告は右約款に基づき、靖男に対し、平成二年一〇月二日、金一一五万円(前記のとおり、被保険自動車の時価による損害は六二万円であるが、約款による協定保険価額一一五万円が支払われることになつた。)を支払つた。

7  よつて、甲事件原告は、綾部に対し、保険者の代位に基づき、浩治の綾部に対する求償請求権金一三一万九五七二円(前記浩治の過失を斟酌して、前記一七〇万五一〇三円の七割相当額)及び靖男の綾部に対する損害賠償請求権金四三万四〇〇〇円(前記浩治の過失を斟酌して、前記六二万円の七割相当額)の合計金一七五万三五七二円並びにこれに対する訴状送達の翌日である平成三年四月二四日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因(甲事件)に対する認否

1  請求原因1は認める。

2  請求原因2の事実中、破損内容は不知、その余は否認する。綾部は、本件事故現場交差点進入に際しては、注意義務を尽くしていて過失はなく、事故の発生は浩治が暴走したことに起因するものである。仮に綾部に過失があつたとしても、浩治の過失の方が大きい。

3  請求原因3ないし6は不知。

三  請求原因(乙事件)

1  交通事故の発生

(一) 日時 平成二年七月一四日午後一一時五分ころ

(二) 場所 岡山市奥田二丁目三番九号先市道

(三) 加害車両 普通乗用車(岡五八ま八一九三)

(四) 右運転者 浩治

(五) 被害車両 普通乗用車(岡五八み八〇九三)

(六) 右運転者 綾部

(七) 右所有者 右同

(八) 態様 出会い頭衝突

2  責任原因

浩治は、本件事故現場交差点に進入する際、同交差点の見通しが悪いのであるから、徐行する注意義務があるのにこれを怠り、時速九〇キロメートルくらいのスピードで、減速することなく通過しようとした過失により、浩治運転の自動車を綾部運転の自動車に接触させたものである。

3  損害

綾部の運転した同人所有自動車のフロントバンパー等が破損したことにより、綾部は、その修理費金四六万四〇九七円の損害を被つた。

4  よつて、綾部は浩治に対し、右損害金四六万四〇九七円及びこれに対する不法行為の翌日である平成二年七月一五日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を支払いを求める。

四  請求原因(乙事件)に対する認否

1  請求原因1は認める。

2  請求原因2は否認する。

3  請求原因3は不知。

五  乙事件被告の抗弁(過失相殺)

綾部は、本件事故現場交差点に進入する際、対面する信号機が赤色点滅を表示していたのであるから、一時停車して左右の安全を確認して進行し、左右に進行中の車両があるときまたはその有無が確認できないときは進行すべきでない注意義務があるのにこれを怠り、漫然進行した過失により、綾部運転車両を、その右方向から直進してきた浩治運転車両に衝突してこれを破損したものであり、綾部の損害賠償額を算定するにあたり七割の過失相殺がなされるべきである。

六  乙事件被告の抗弁に対する乙事件原告の答弁

争うが、仮に過失相殺をするとしても二割までである。

第三証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりである。

理由

一  甲、乙両事件の各請求原因1の事実は当事者間に争いがない。

二  右事故の発生状況及び関係者の過失などについて検討する。

1  証人根岸隆之の証言により真正に成立したことが認められる甲第二号証、原本の存在及び成立について当事者間に争いのない乙第一号証の二ないし四、証人根岸隆之の証言、浩治及び綾部の各本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

(一)  本件事故現場は、東西方向の道路(車道幅員約四メートルで北側に幅員一メートル、南側に幅員一・五メートルの路側帯がある。)と南北方向の道路(車道幅員約三・四メートル、東側に幅員一メートル、西側に幅員一・五メートルの路側帯がある。)とが交差した信号機の設置された交差点であり、本件事故当時信号機は、東西方面の道路の対面信号機は黄点滅、南北方向の道路の対面信号は赤点滅となつていた。

(二)  浩治は、東西方向の道路を、前照燈を灯火し、時速約五〇キロメートル(制限時速三〇キロメートル)で、東から西に向けて走行し、本件交差点を通過しようとして、前記黄色の点滅信号を確認したが、そのままの速度で進行し、交差点から十数メートル手前付近で前方の交差点付近に左側からの綾部運転車両のライトを発見したものの、何ら相手車との衝突回避の措置をとることができない状態でそのまま進行し、次の瞬間、両車は、本件交差点内(東西方向の道路の車線南側と路側帯とを区画する道路標示の東西に延びる直線部分を交差点内にまで延長した線から北へ約四〇センチメートルの地点付近)で、綾部運転車両の前部と浩治運転車両の左側部真ん中辺りが衝突した。浩治はその衝撃でブレーキを踏むことができずそのままハンドルを左に切りながら進行したうえ、衝突地点から約二五・二メートル先の道路南側の訴外会社の工場の門扉を押し開け、その先約八・三メートルの同工場事務所に衝突して停止した。

(三)  綾部は、前照燈を灯火して南北方向の道路を進行中、本件交差点の対面信号が赤色点滅となつているのを確認したので交差点手前の停止線で一時停止したものの、同地点からでは左右の見通しが悪く左右の安全が確認できないため、安全確認のため、徐行しながら交差点南側の横断歩道を越えた辺りまで進行したところ、右側から進行してきた浩治運転車両を発見し、すぐさまブレーキを踏み停止したが、右(二)記載の地点で浩治運転車両と衝突した。

以上の事実が認められ、前掲各証拠中右認定に反する部分は信用することができず、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

2  右事実によれば、浩治は、夜間見通しの悪い交差点内で、対面信号が黄色の点滅信号を表示していたのであるから、減速徐行して本件交差点を進行すべき注意義務があるのにこれを怠り、漫然と時速約五〇キロメートル(制限速度時速三〇キロメートル)の速度で、南側から交差点に進入する車両があつても、これとの衝突回避措置は何らとり得ない状態で本件交差点を進行しようとした過失により、本件事故を発生させたことが認められると共に、綾部にも、交差点手前で一時停止後、徐行しながら安全確認のため進行した際、もう少し早く浩治運転車両の前照燈に気付くなどして事故地点より手前で停止していれば、本件事故は回避できた筈であるところ、これを怠つた過失により、本件事故を発生させたことが認められ、結局、本件事故は、両者の右過失が相俟つて発生したものであるというべきである。そして、右両者の過失の内容、本件事故の態様等を総合的に考察すると、浩治と綾部の過失割合は、浩治が七、綾部が三と認めるのが相当である。

三  甲事件請求原因3ないし6の事実は、成立に争いがない甲第六号証、証人中村和敏の証言とこれによつて真正に成立したことが認められる甲第三号証の一ないし三、第四号証の一ないし四(原本の存在も含む。)、第五号証、第七号証と弁論の全趣旨によつて認められる。

しかして、前記浩治の過失を斟酌すると、甲事件原告が甲事件被告に請求できる額は七五万一五三〇円(訴外会社に支払つた損害一八八万五一〇三円及び前記被保険車の損害六二万円の合計額の三割相当額)と認められる。

四  乙事件請求原因3の事実は、原本の存在に争いがなく弁論の全趣旨により原本の成立が認められる乙第二号証の一ないし三、綾部本人尋問の結果と弁論の全趣旨によつて認められるが、前記綾部の過失を斟酌すると、綾部の浩治に請求できる額は三二万四八六七円と認められる。

五  以上の次第で、甲事件原告の請求は、前記金七五万一五三〇円及びこれに対する甲事件訴状送達の翌日であることが記録上明らかな平成三年四月二四日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却し、乙事件原告の請求は、前記金三二万四八六七円及びこれに対する本件不法行為の翌日である平成二年七月一五日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用し、なお、乙事件の仮執行免脱宣言については、相当でないからこれを付さないこととし、主文のとおり判決する。

(裁判官 梶本俊明)

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